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目はおそらく巨大なものだ

目はおそらく巨大なものだ

眼球は脳髄へ通じそれは身体諸器官へ

開かれた目はきみを世界の事物のほうへ

事物の顔へ 恐怖へ やさしさへ 恍惚へ

きみ自身にきみを向かわせる

 

目はおそらく巨大なものだ

眼球はきみを吸い込む深淵

それは身体の外へ露出したおそらく唯一の肉の部分

傷つき引き裂かれた肉も(それが

生きつづけているかぎり)無数の目を持つ

 

あらゆるものは目を持つ 皮膚もまた

皮膚はその全面で 家屋も 樹木の表皮も 大地も

死者の肉塊も 骨もそれ特有の目を持つ

その意味では空気も あるいは思念でさえも

夜も 無もまた目を持つのだ

 

花ばなのなかに開く目

水のなかに開く目

夜のなかに開く目

 

目はおそらく巨大なものだ

すべてのものは目から出て 目に入る

死者も 木も 石も けものも目から出ていく

目から出ていくすべてのもの

その生あるもの その見えざるものが世界の構成者だ

 

ぼくは母を知らない だが父を知っている

(ぼくは目を持っているのか? もし持っているとしたら

ぼくは全身でそれを持っているのだ)

父は空気のなかにいる 父はアーチ状の空をあゆんでいる

ぼくはそしてそれを母のふところのなかで見たのかも知れぬ

 

目はおそらく巨大なものだ

きょう空に燃える目

きょうわたしはここにはいない この橋のたもとに

わたしは わたしの知るところにいない