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おまえは目を閉じて そのとき

水滴のさまを描け

だがことばではなく カンバスのうえにではなく

おまえのこころに

ひびのはいった壁のうえに

 

樹木や 建物や

さまざまな人物がいる風景のうえに

ひとしずくの水が落ちるさまを描け

おまえの手をかすな たとえ

そこにどんなシミがあろうと

じゃまものがあろうと

灼けていようと 冷たかろうと

凹凸があろうと

そこにいま

ひとしずくの水が落ちるさまを描け

 

それが落ち 散らばっていくか

どうなるか

闇のなかで

そうだ 電車のなかで

見知らぬ男の面前で

あらゆる場所で

いまゆっくり落ちていく水滴のさまを

描け

 

そうして

それがなんであるかを問うな

光る透明な水の玉のなんであるかを

風景や

カンバスがなんだというのだ

ことばがなんだというのだ

 

ひとしずくの水が

いまそれらの面をよぎってゆっくり落ちていく

おまえは目を閉じてそのとき

おまえのこころのありかを知ればいい