誰か
とぼくは
高い
山のうえから降りてくる
どこにも
薄い日がさしていて
そのなかを
ぼくは誰か
と降りてくる
かたい木の根のようなものに
脚をとられながら
ぼくは
その誰かにからだを支えられて
降りてくる
ぼくは
熱気のこもった一九五八年を降りてくる
表通りを通り
雑沓にもまれ
それからとある露路へと曲がる
暗いバラックを抜ける
一人の娘と
動かぬ病人のよこを通る
何もないテーブルのよこを通る
失意の
よこを通る
(ぼく等は
そのとき
ホタルのように
明滅
しているのだろうか
ぼく等は
そのとき
一隻のライフボート
を持って
いないだろうか)
白い
しぶきを浴びながら
ぼく等は
行く
ナパーム弾に焼きはらわれた村を
たった一つのもの音もしない
あおぐろい
海のそこのような時間
のなかを
——どこかの谷川に一匹の魚が泳いでいた