冬がきた。町にはネオンがともり、わたしの子どもや女たちはふるえている。
取り入れがすみ、木の葉が一枚いちまい散ってゆき、冷めたい雨がその後の野を包み、わたしの体温を日いちにちと奪いさってゆくように思われるとき、わたしのしたことは何であったか? やがてくる冬のさなかに何がおこなわれようとするのかわたしは思ってもみなかった。狂ったように、わたしはひとりわたしの血をわき立たせていたのだ。
悔やんでもおそい。わたしのなかにはそのときすでに、あの奇妙な生物のようないとなみが始まっていた。何ひとつ実を結ぶことなく、成就されない生命が。そして、ここには、ただ荒れ狂う波の音だけが聞こえていた。さかまく波が終日どぶんどぶんとわたしの部屋の戸口をたたいていた。
この荒涼とした夜、わたしを訪れたものは一羽のはげたかだった。はげたかは、四六時中一瞬の休みもなしにわたしのまわりを飛びつづけた。――あゆと歓楽に身をゆだね、死をおそれるものにとっては眠りはあり得ぬ。そこにはただ目覚めた死があるばかりだ。
すべてが、悩みと恐怖を運んでいた。過去をうかがうおかされた頭。はてしなく夏の微風が、親しいまなざしが、海のにおいが、かれの後を追ってくる。かれはそのなかで狂っている、つまずいたレコードのように……
あり得ぬことである 夏の微風。
あり得ぬことである 恋人のまなざし。
あり得ぬことである 海のにおい。
あり得ぬことである わたしと、わたしのかかわりあったもの!
おお、ここにきて何がある? 永遠の、身をやく苦痛。悲哀。自分自身にむかってのつきることない罵詈雑言。
夜のなかにうちふるえる影。おまえ、そのうえに、おまえのおろかな悲しみの一つひとつを重ねあわせろ。燃える頭を、老いさらばえた手足を。そして、おまえの苦痛と悲しみをじっと抱け。ただそれだけがおまえのものである苦痛と、悲哀を。カトゥルスよ、おまえの膝小僧を抱け。
そして、もしおまえにできるなら、じっと目をとじ雨の降るなかにおまえのために祈るもののあることを信じよ。その声に耳傾けよ。