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渚について

八番ホームの階段が「ダヂヅデド」といった。

今年最初の澄んだ秋空からそれは、不意にすすきを押

分けてやってきた壊れた眼鏡のような電車のせいであっ

たかも知れない。が またそれは 黒いつむじ風のよう

にたちまちあなたの視野から水のような空の高みへと消

え失せて行くあの群衆の責任でもあった。だが それに

してもそれは あの暗い汚れたコンクリートの階段の孤

独なつぶやきだったのだ。

 一人の少女はそれに気付いていた。

 少女のお腹が「ガギグゲゴ」の「グ」の音を発音した

からだ。少女のお腹にも一つの階段が すなわち煙草の

吸殻や紙屑などと一緒に吹き寄せられたくしゃくしゃの

ネッカティーフなどが散らばっている。あの暗い汚れた

コンクリートの階段があったのだから。

 

詩集『大きなドーム』(1957年)より