黒い帽子をかむり
右手に
白い手袋をはめた人よ
水のようにやさしい眼差しをして
胸に
一輪の造花を挿した人よ
あなたです
この錆びた重い扉を
ぼくに開いてくれたのは
そして
小さなバスケットを提げ
黄色いシャツを着て
一ぽんのシガレットのように立つ
このぼくのコバルト色の切符に
消えることのない鋏を
入れてくれたのは
あなたです
あなたです
水のようにやさしい眼差しをして
胸に一輪の造花を挿し
白い手袋をはめた人よ
詩集『大きなドーム』(1957年)より