彼はいつも砂糖なしでコーヒを飲む
彼はいつも同じ鼠色のソフトをかぶっている
冬の朝はしめって冷たい
彼のこころもしめって冷たい
彼はいつも砂糖なしでコーヒを飲む
彼はいつも同じ歩調で舗道を歩く
冬の空はやわらかくて悲しい
彼のこころもやわらかくて悲しい
そんな
冬の朝の少しばかり汚れた時間
河が動いている かすかに
橋や 少女や 空を浮かべて
彼は今朝も砂糖なしでコーヒを飲む
彼はそうして街角を曲がっていく
ピンク色の朝靄に包まれた街はぼくらにとって
あまりにおおきくて広過ぎます
詩集『大きなドーム』(1957年)より