その階段の白い石を
一つ一つ踏んで昇る脚は
僕の脚だろう
なぜなら今朝
僕は足を失ったのだから
その谷底深く
谺すら届かない闇の方へ降りて行く耳
それは僕の耳だろう
なぜなら今朝
僕は耳を失ったのだから
その地平線に眠りつづける都市の方へ
怒りもなく伸びている腕
それは僕の腕だろう
なぜなら今朝
僕は腕を失ったのだから
鍬を持ったまま人は動かない
明るい光線に包まれた無益な土地
何ものも帰ってくるわけではない
君たちは今朝
一人の男を失ったのだ
すでにこの土地には
木賊類の群落が見られる
詩集『水の装い』(1954年)より