(ペンネーム:西 卓)
淡い雲が流れる
フラスコの中に
生まれたばかりの
ぼくのvieを
白い犬
が来て食べる
汽車は発車する
フラスコの中の
よじれ巻き上り
殆んど見えなくなる蜻蛉
半身を窓から乗り出して手を振る
少女の顔はみるみる砕け
薔薇色の非常に白い
何と遠い太陽
左手に持つ甲虫の角で
男はグイと
植物園の扉を開けて
入る
海の露路裏は
物売りの呼び声で
結晶する
砂浜では
二頭の馬が喘ぐ
その脚は永遠に動かない
殺した者と殺された者
その二人の闘争が無限に続く
ミノトオルの光る喉の輪
その紫
の白色の影の中で
すべての足跡は
消える
詩集『水の装い』(1954年、三角旗社)より