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貝殻だけの夜

                          (ペンネーム:西 卓)

吊り下げられた

一枚の白いハンカチィフ

ボロボロになった蝉の羽の

その透明な網目が

 

乾いた砂が汚れている

夜はサルヴィアの花である

鶯は

タバコをくわえて待つ

ぼくの前で鳴く

 

褐色の時間に染まって

ぐにゃぐにゃになってる月

煤だらけの円筒の中で

ぼくは一匹の毛虫になり

月の面を滑り落ちる

大小模様の固い箱につまずいて

それから

再び滑り落ちる

 

詩集『水の装い』(1954年、三角旗社)より