· 

燻銀の太陽の浜辺で――亡き祖母に

                  (ペンネーム:西 卓)

ぼくの額の星を貫いたのは

海の飛礫の喚きです

菫色の獅子の頭の中で

数珠つなぎになる

絢爛たる文字

糸車は

波に攫われました

 

何を焚こう?

すべての疑問を覆えして

激しく落下する黄昏の中の

白い柩

燻銀の太陽の浜辺で

火は

見知らぬも一つの海に向かって

飛び去る

 

攀登る

うまれつつあるvita

一本の藁しべの

真夜中の祈りの為の鏡は

微塵に砕け散る

 

拡がる

夜の底をぼくは拡がる

蜜蜂の羽音の中で

伸び上がる樹木を

風見のある街を

見失う

 

さて

これはもう真昼です

ぼくは寝転んで空を見上げる

葉ばかりが

とてつもなく茂った樹

そして

もう動かぬ小さなあなたの柩

 

詩集『水の装い』(1954年、三角旗社)より