(ペンネーム:西 卓)
閉じた鎧扉の内側の
暗いベッドの人は
静かに眼を閉じ
遠いさざめきを聞く
陽射しが
彼の内部の長い通路を
ゆっくり移動する
だがぼくは
その中で眼を開けていられない
光の爪は鋭くて
はげしく痛むからだ
ナルシスの泉の
暗い底の水まで
それは攪乱し
白い四角な空間の真只中に
ぼくを置く
ぼくは
その中で眼を開けていられない
ビニールで包まれた
真鍮と鋼の祭壇
受話器のベルがはげしく鳴り
祈る卵形の頭がひび割れ
一本の百合が花開く
静かに
移行する陽射しの中で
貝殻や藻屑と共にぼくは
過失の痕跡でしかない
色褪せた花びらとなって
永遠の浜辺に取残される
詩集『水の装い』(1954年、三角旗社)より