夕暮れの海辺に子どもが四人
ぼくは そのとき
遠くはなれた石の柵にもたれて
さまざまに色を変えていく
海と空を眺めていた
昼から夜へ
夜は
遠くの入江からも
すぐ近くの木立からも 叢からも
家々の軒下からも
ぼくの足もとからも
ふしぎな生き物のように
触手を伸ばし
急速に広がっていく
海は
水平線が際立った一本の黒い線
海岸寄りはまだ白く
その白を背景に
黒いシルエットとなった子どもが四人戯れている
ひとかたまりになったり
二人が重なって三人にみえたり
急に散って四人になったり
倦くことなくそれを繰り返している
声は届かない
多分喚声をあげているだろうが
かすかな潮の音だけ
暮れていく空と海
白の背景は少しずつ狭まっていくが
黒いシルエットとなった子どもたちの動きは
いつまでもつづく
ぼくは
倦かずそれを眺めている
ぼくは思う
神よ
昼と夜のあわいに垣間見た
この一瞬のパントマイム
わが生の束の間に現れた
それは何か
神よ
私は了解する
私の日々のさまざまな生は
この夕暮れのシルエットのために
準備されていた
のだ と
星が輝き始める
ぼくは
ぼくがゆだねられていたものが何であるか
を知る
1996.11